December 3

あんた、そのマフラーまだ使ってるの？　もうボロボロじゃない。
ああ、何しろ誰かさんが一生懸命編んでくれた力作だからな。
だから、力作なんかじゃなくて、ただの試作品なんだからっ！！
多少隙間風が酷かろうが、えびぞりになってようが、首に巻いときゃ暖かいさ。
……何よそれ！　要するに下手くそだって言いたいわけ！？
そんなことは一言も言ってないぞ。ああ、このミトンも大分毛玉だらけになったが愛用品だ。
だからそれはミトンじゃないっていってんでしょ！！
で、次は帽子の約束だったはずだが。
う、うるさいわね！　受験生に編み物する余裕なんてあると思うの！？
そのくらいの余裕はあると思うが。少なくとも俺にはあったぞ。ほら。
えっ、な、なによこれ！　どうしたのよ、この帽子！　かわいいじゃない！
編み物っていうのは、いい気分転換になるんだな。試作品だが欲しけりゃやるぞ。
ほ、欲しくなんかないわよ！　誰があんたの手編み帽子なんか、なんか……くしゅんっ。
頭って言うのは意外に冷えるんだぞ。ほら受験生、風邪引きたくなかったら被っとけ。
べ、別にあんたの帽子が欲しいわけじゃなくて、ただ今寒いだけなんだからねっ！　あとでちゃんと返すんだから！
いや、そんなピンクでうさぎさんな帽子を返されても俺には使い道がない。
じゃ、じゃあ、ちゃんとかっこいいのを編んで、返すんだから！
おお、期待してるぞ。ちなみに、減らし目のやり方だが――。
うるさいわね！　そのくらいちゃんと分かってるわよ！！　あとちょっとで出来上がるんだから！
そうか。なら、センター試験までに間に合えばいいぞ。
分かってるわよ！　ちゃんと間に合わせてやるんだから！
そしたら、お揃いで被っていこうな。
はあ！？　なにそれ。
願掛けってやつさ。来春、予備校で再会しないようにな。
するわけないでしょ！　私は現役合格してみせるわよ！
もちろん、俺も現役合格するつもりだ。だから来年も、なんかよろしくな。
まさか、あんた同じ大学受けるつもりじゃないでしょうね！？
勿論そのつもりだ。
マジなの！？　もう――本当にあんたって、変な奴！！
お前と付き合ってる時点で充分、周囲からは変な奴呼ばわりだ。気にするな。
どういう意味よ！！　んもう、ムカつく――！！

Story by seeds