December 5


「ああ、出てきたでてきた」
 大きく動かした本棚の裏から、控えめな歓声が上がる。
 また昔の写真でも見つけたのだろう、さして興味も持たずに「なあに」なんて相槌を打てば、埃まみれの母が、埃まみれのファイルを抱えて現れた。
「もう、思い出に浸るのは新居に移ってからにしてよね」
「なに言ってんのよ、これあんたのじゃない。ほら、覚えてないの?」
 差し出されたファイルを訝しげにめくれば、そこにはきったない字で書かれた――これはレシピ?
「チャプスイの作り方、ホワイトソースの作り方? ああ、これって……」
 思い出す。小学生だったあの頃。
 おばあちゃんの秘伝のレシピが知りたくて、必死に聞いては書きとめた。
 大さじ何杯、なんて計り方をしないおばあちゃんが、わざわざ計量スプーンで計ってから教えてくれた分量。
 失敗しないコツも、ひとつひとつ丁寧に書かれて。
「懐かしいわねえ。あんた、おばあちゃんのホワイトソース好きだったもんねえ」
 そう、冬の定番メニューは鮭のムニエル、ホワイトソースがけ。
 おばあちゃんのホワイトソースは牛乳の味がして、それだけ小鉢によそってもらって食べたっけ。
「今年のクリスマスは、このレシピで作ってみようかな」
「そうね、おばあちゃんも喜ぶわよきっと」

 年寄り二人所帯だからと、めっきり凝ったメニューを作らなくなったおばあちゃんに。
 今度は私の作るホワイトソースを、食べてもらおう。



Story & Photo by seeds



 ……ほぼ実話。こういうのがひょっこり出てくると怖いですねー(>_<)
 しかし、当時の私の字の汚いことよ……子供を怒れませんな。
 これ、多分小学校一年生くらいの時に書いたものです。

 ちなみに文中に出てくるチャプスイとは、野菜や豚肉を炒めたものを鶏がらスープで煮て、片栗粉でとろみをつけたもので、白いご飯にかけて食べてました。今調べてみたら、広東料理がもとになったアメリカ式の中華料理だそうで。今はあんまり言いませんよね。昔流行ってたのかな。
 うちの祖父は味にうるさい上に新しい物好きなので、祖母は外で食べたものを研究したり、本屋で料理の本を立ち読みして(!)覚えたりして、色々なものを作っていたそうです。
 今はもう、凝った料理はしませんが、私は祖母の料理で育ったので、時たま無性に食べたくなって「スイトン作って〜」「粕汁食べたい〜」などとおねだりしています(笑)



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